*英国体験記その3*

*英国ミステリーとロンドン・ゴーストツアー*

 アガサ・クリステイ、コナン・ドイル、エドガー・アラン・ポーからルース・レンデル等々、英国は独特の切れ味のエレガントでシャープなミステリー作家が多く生まれるお国柄のようです。一般的に英国の人々もまた、ゴーストやミステリー話が大好きだと言われています。

 なぜかどんな小さな田舎町に行っても、そこには必ずその土地の歴史的な犯罪とゴーストストーリーが記されたリーフレットがトラベルインフォメーションの片隅に慎ましく置いてあり、またその忌まわしい犯罪現場やゴーストが出没するという名(迷?)所を夜案内するという世にも奇妙なツアーが毎夜のように催されているのです。

 ランカスター、リバプール、チェスター、ヨーク、オックスフォード、ケンブリッジ、バースにコッツウオルドの村々をはじめ、ロンドンにはウオーキングツアーだけでなくバスツアーも数種類用意されていました。ここではロンドンで参加したツアーの一つについて簡単にご紹介します。

 私が参加したのは、午後7時半にロンドンのグロブナーシスルホテルの前を出発するその名も"Bus Trip to Murder"というもので、ミステリー好きの台湾人の友人ユフィと二人でノートを片手にバスに乗り込んだのでした。バスはまずイーストエンドのうら寂しげな通りに向かいます。

 ここは19世紀にJack the Ripper(切り裂きジャック)が出没し、5人以上のprostituteを殺害した現場です。その当時、ジャックが次の犠牲者を物色したといわれるパブもいまだに普通に営業中だったのには驚きました。

 車中では演技派のガイドさんからイーストエンドのもう一つの有名人?「悪魔の床屋」ことSweeny Toddsの話も聞かされ、トッドが住んでいたというFleet Streetに向かいます。

 このカニバリズムの恐ろしい人肉パイ事件の話はジョニーデップの映画やミュージカルでも上演され人気を呼んでいますが、実のところは大部分がフィクションであるらしいです。

 次に向かったのは大戦中に大惨事のあった地下鉄駅とそのちかくにある「ポルターガイストが起こるトイレがある」というパブでビールを飲んだ後ドキドキしながらトイレに行ってみましたが何も起こりませんでした(でもちょっと怖かった~^^)

 その後ファントムヒッチハイカーが出没するといわれる"The Blackwall Tunnel"を通り、"a haunted house"で心霊写真?を撮影したあと最終地点のグリニッヂへ向かい、古いパブで伝統的なフィッシュ&チップスを食べるという実にゴージャス?なコースでした。

 ツアーの参加者は皆ヨーロッパの各国から来た人々でアジア人は私とユフィだけでした。最後のデイナータイムはそれぞれのなまりの強い英語を駆使しての英国と自国の幽霊話の比較論が展開され、なかなか豊かな国際交流が楽しめました。スペインの老夫婦に日本の「番長皿屋敷」の詳しいストーリーを尋ねられたのですが、よく知らなかったので困っていると、台湾人のユフィが(日本マニアということもあるけど)詳しく知っていて助けてくれたのには驚きました。たかが怪談話とはいえ、やはり外国のことを知ろうとする前に自分の国の事についてもっとよく勉強しておくべきなのだとおおいに反省しました。

 参加者の方々とビール片手に話していると、どの国にもよく似たゴーストストーリーが伝統的に存在している事もわかりました。特にトンネルで車に乗ってくる幽霊の話は、日本では「しっとり後部座席に座ってくる」というのが定番のようですが、ラテン系の国では「バイクに飛び乗ってくる」という話が多いようでお国柄の違いがしのばれ、興味深かったです。